デリバティブ取引に係る未決済損益の計上について

 商品を海外から輸入している会社においては、通貨オプションや通貨スワップ取引を利用して包括的長期為替予約契約を銀行と結んでいることが多いようです。こういったデリバティブ取引をしている場合、期末に未決済となっている取引について期末に決済したものとみなして算出した利益の額または損失の額は、所得の計算上、益金の額または損金の額に算入することと法人税法上定められています(法61の5①)。中小企業においては、会社法に特別の規定はありませんが、中小企業の会計に関する指針の16および47で「デリバティブ取引により生じる正味の債権および債務は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は、当期の損益として処理する。」と定められており、会計上も法人税法と同様の取り扱いとなっています。つまり、金融商品取引法の適用のない中小企業でも、期末未決済のデリバティブ取引の評価損益は、会計上、税務上計上の義務があります。繰延ヘッジ処理が可能かという点が問題になりますが、通貨オプションや通貨スワップ取引による包括的長期為替予約契約については、法人税法上、適用できないと規定しています。なぜなら、期末時換算を行う外貨建債権債務については期末のレートで換算され、為替リスク部分は損益に計上されるので、それに係るヘッジ手段であるデリバティブ取引の損益を繰り延べる必要はないためです(法61の6①二)。なお、国税不服審判所の裁決(平19.1.29 東裁(法)平18-162)では、スワップ取引のみなし決済金額を益金の額に算入した更正処分を不服とした請求人の主張を棄却しています。①先物為替予約契約ではないこと、②金利スワップ取引ではないこと、③期末時換算資産等に係る為替相場の変動に伴う損失は繰延ヘッジ処理できないこと が理由となっています。また、平成15年2月18日付日本公認会計士協会リサーチ・センター審理情報№19「包括的長期為替予約のヘッジ会計に関する監査上の留意点」では、次のようにまとめています。1年以上の予定取引は、輸入見合いの長期の円建売契約がある場合を除き、原則として会計処理上は投機目的と考えられる。ただし、(1)為替相場の合理的な予測に基づく売上と輸入(輸入品目は要特定)に係る合理的な経営計画(通常3年程度)があり、かつ損失が予想されない場合もしくは、(2)輸入予定取引に対応する円建売上に係る解約不能の契約があり、かつ、損失とならない場合のみ、当該予定取引をヘッジ対象とすることは監査上認められる場合もある。平成17年2月8日の青山商事㈱のIR情報「平成17年3月期の業績修正の可能性について」では、商品仕入に係る包括的長期為替予約契約について「ヘッジ会計」を適用していたが、「時価会計」に変更するよう監査法人から示唆されているとあります。結果、平成17年5月6日の「業績予想の修正に関するお知らせ」では、「時価会計」の導入によりデリバティブ評価損失計上に至っています。中小企業は監査対象ではありませんが、参考になるかと思います。したがって、期末未決済のデリバティブ取引において評価損が出ている場合には、税務上、未計上でも問題にはならないでしょうが、期末に評価益が出た場合には計上せざるを得ず、未実現利益に対する税金支払いが発生しますので、資金繰りの準備が必要になりますから注意が必要です。課税庁においては、①輸入取引の実態があり、②途中解約が基本的に不可能な長期契約であり、③信用リスクに晒されていない場合 には、包括的長期為替予約契約についてはデリバティブ取引の期末未決済損益の計上を不要とすることをご検討いただきたいと思います。
(参考資料)『税務通信』№2646 pp.13-21 廣瀬彰 「クーポン・スワップ契約に係る法人税課税について」『税務通信』№2781 廣瀬彰 「クーポン・スワップ契約に係る法人税課税について(2)」『税務通信』№2794 廣瀬彰 「クーポン・スワップ契約に係る法人税課税について(3)」『税務通信』№2825(2008年5月掲載)